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東京地方裁判所 平成元年(ワ)9415号 判決 1992年10月23日

原告

株式会社サカエ・トラベル・サービス

右代表者代表取締役

後藤民夫

原告

株式会社秘湯の旅

右代表者代表取締役

小崎廣明

原告両名訴訟代理人弁護士

浅井岩根

岩本雅郎

宮道佳男

右訴訟復代理人弁護士

滝田誠一

被告

日本航空株式会社

右代表者代表取締役

山地進

右訴訟代理人弁護士

西迪雄

向井千杉

富田美栄子

山下淳

被告

株式会社ジャルパック

右代表者代表取締役

若木孝之

右訴訟代理人弁護士

鈴木祐一

西本恭彦

水野晃

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告日本航空株式会社は、原告株式会社サカエ・トラベル・サービスに対し、金一〇一万八四〇〇円及びこれに対する平成元年八月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2(一) 被告日本航空株式会社は、同被告が発行する別紙目録(一)上段記載のペックス運賃航空券(航空券面上のFARE BASIS欄に記載された符号中に「PX」の符号が、FORM OF PAY-MENT欄に記載された符号中に「NONREF PEX」の符号がそれぞれ含まれた航空券)につき、同目録下段記載の運輸大臣による認可運賃を収受することなく販売してはならない。

(二)  被告日本航空株式会社は、現行の日本発国際航空運賃が変更されたときは、別紙目録(一)上段記載のペックス運賃航空券につき、同目録下段に対応する変更後の運輸大臣による認可運賃を収受することなく販売してはならない。

3 被告らは、被告日本航空株式会社が発行する日本国内の空港を出発地とする団体IT(INCLUSIVE TOUR=包括旅行)運賃航空券(航空券面上のFARE BASIS欄に記載された符号中に「GV」の符号が、TOUR CODE欄に記載された符号中に「IT」の符号がそれぞれ含まれた航空券)につき、宿泊の手配を組み合わせることなく、航空券のみを販売してはならない。

4(一)  被告株式会社ジャルパックは、同被告が企画する別紙目録(二)上段記載のハワイ行団体IT商品(パッケージツアー)の宣伝用パンフレット及び広告に、同目録下段記載の運輸大臣による認可料金未満の価額の表示をなし、またこれを表示したハワイ行団体IT商品を右認可料金未満の価額で販売してはならない。

(二)  被告株式会社ジャルパックは、現行の日本発国際航空運賃が変更されたときは、同被告が企画する別紙目録(二)上段記載のハワイ行団体IT商品(パッケージツアー)の宣伝用パンフレット及び広告に、同目録下段に対応する変更後の運輸大臣による認可料金未満の価額の表示をなし、またこれを表示したハワイ行団体IT商品を右認可料金未満の価額で販売してはならない。

5  被告らは、連帯して、各原告に対し、各金一〇〇万円及びこれに対する平成元年八月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は被告らの負担とする。

7  1、5及び6につき、仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告らは、旅行業法に基づく旅行代理店業等を営む会社である。

(二) 被告株式会社日本航空(以下「被告日本航空」という。)は、航空機による運送業等を営む会社であり、被告ジャルパック株式会社(以下「被告ジャルパック」という。)は、被告日本航空の子会社であり、旅行業法に基づく一般旅行代理店業等を営む会社であり、同被告の航空券等を販売し、「ジャルパック」「アヴァ」等の名称によるパッケージツアーを企画販売している。

2  請求の趣旨1(不法行為に基づく損害賠償請求)について

(一) (認可申請の違法を理由とする請求)

航空運賃の決定、変更は、運輸大臣の認可を受けなければならないと規定されているが(航空法一〇五条)、国際航空運賃は、事実上は、航空会社の集まりである国際航空運送協会(以下「IATA」という。)の運賃調整会議(以下「運賃調整会議」という。)で決定されている。被告日本航空は、IATAの正会員であるうえ、IATAでの地位が極めて高く、運賃調整会議を左右する力を持ち、特に、日本に関連する国際航空運賃の決定には支配的力を有している。しかも、同被告が国際航空運賃に関する情報を独占していることから、運輸省は、右情報を同被告を通じてしか入手することができず、したがって、IATAで決定される国際運賃協定やこれに基づく国際運賃が適正であるか否かを実質的に審査することはできない立場にある。このため、日本に関連する国際航空運賃については、実際には、被告日本航空が決めたことを運賃調整会議や運輸省が追認する結果となっている。

被告日本航空は、このような国際航空運賃決定のプロセスの実態を利用して、平成元年七月一日をもって、成田発ロサンゼルス行ビジネスクラス航空券について、途中降機制限付きの安価な一六万八四〇〇円のものを廃止することにより実質的に一八万六八〇〇円に値上げすることとなるIATA決定を取り付け、これを運輸大臣に認可申請し、もって右のような実質的な運賃値上げを実現させた。

以上のような被告日本航空の行為は、公共交通機関として、航空運賃の認可申請にあたり、消費者の利益を尊重し、能率的な経営の下における当該事業の適正な利潤を含めた範囲内の金額を認可申請すべき義務に違反する違法な行為である。被告日本航空は、右の故意のある行為により、原告サカエ・トラベルに対し、後記のような損害を与えたものであるから、民法七〇九条に基づき、不法行為責任を負う。

(二) (欺瞞的行為を理由とする予備的請求)

仮に、被告日本航空の右認可申請が違法でないとしても、被告日本航空は、前記のとおり、成田発ロサンゼルス行のビジネスクラス航空券について、途中降機制限付きのものを廃止することにより、ほとんど一〇〇パーセント近くの乗客にとって実質的に値上げの結果となるにもかかわらず、ことさらにこのことを隠蔽して開示せず、かえって「日本発航空運賃を大幅値下げ……来年度中をめどに主要路線で実施」などとマスコミに発表したり、「当社は運輸省に対して―、太平洋線の二〜一二%……の普通往復運賃値下げを申請した。」などと広報したり、平成元年六月頃から同被告の八重洲営業所カウンターに「運賃値下げのご案内 今般下記の日本発運賃の値下げが認可されました。アメリカ 片道・往復 ファーストクラスビジネスクラス 発行日七月一日」などと書いた掲示をしたり、記者会見において同旨の発表をして「国際航空運賃値下げで一応決着」「西海岸行は日本発が割安」などと新聞報道させたりして、あたかも同被告の日本発・米国西海岸行の航空運賃が実質的に値下げされるかのような説明を行った。

このため、原告株式会社サカエ・トラベル・サービス(以下「原告サカエ・トラベル」という。)の代表者である後藤民夫(以下「後藤」という。)は、成田発ロサンゼルス行ビジネスクラス航空券について、平成元年七月一日より前に一六万八四〇〇円で購入することができたにもかかわらず、平成元年七月一日から日本発米国西海岸行の航空運賃が値下げになるものと誤解し、値下げになるまで、業務のために必要な日本発・米国西海岸行の航空券を購入するのを控えた。そして、後藤は、同原告の業務上の必要から、同月五日、成田発ロサンゼルス行のビジネスクラス航空券(以下「本件航空券」という。)を購入したところ、その料金は、前記一六万八四〇〇円を一万八四〇〇円も超える一八万六八〇〇円になっていた。

右のとおり、被告日本航空の構成員又は被用者の右のような行為が欺瞞的行為であり、違法であることは明らかである。被告日本航空は、右の故意のある行為により、原告サカエ・トラベルに対し、後記のような損害を与えたものであるから、民法七〇九条又は民法七一五条に基づき、不法行為責任を負う。

(三) 主位的及び予備的請求に係る原告の損害

平成元年七月一日より前においては、成田発ロサンゼルス行のビジネスクラスの途中降機制限付き航空券は一六万八四〇〇円であったところ、原告サカエ・トラベルは、平成元年七月五日、本件航空券を一八万六八〇〇円で購入せざるをえなくなった。したがって、右の実質的な値上げ額である一万八四〇〇円と本訴遂行のための弁護士費用一〇〇万円との合計額一〇一万八四〇〇円の損害を被った。

(四) よって、原告サカエ・トラベルは、被告日本航空に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、右損害金合計金一〇一万八四〇〇円及びこれに対する不法行為の後である平成元年八月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3  請求の趣旨2(ペックス運賃航空券の販売差止請求)について

(一) (不正競争行為防止法一条一項五号に基づく請求)

特定区間を普通運賃より短い期間で往復することを条件に普通運賃より安く設定され、また途中降機、予約変更、払戻し等に関し厳しい条件が付された運賃をペックス運賃というが、被告日本航空は、直接、又はアメリカやヨーロッパなどの現地法人を通じ、海外在住の日本人が日本から家族や友人を招待するための航空券を「呼び寄せ航空券」と称して、ペックス運賃に関する条件による規制に違反した安値で販売している(以下右航空券を「呼び寄せ航空券」という。)。

しかしながら、運輸大臣の認可運賃を下回る価額で発行された航空券は違法無効なものであり、航空会社に対し、その航空券面上に表示された航空運送サービスを請求することができないのであるから、呼び寄せ航空券は、このように廉価販売されることによって違法無効なものとなるというべきところ、被告日本航空は販売代理店などと共謀のうえ、これを秘匿してペックス運賃航空券の廉価販売を行っている。

被告日本航空の右行為は、その顧客をしてあたかも有効な航空券の廉価販売がありうるかのごとく誤信せしむる行為であり、顧客は、被告日本航空のこのような行為によって、自己が取得したペックス運賃航空券が、真実は瑕疵があって航空運送サービスを法的には受けられないものであるにもかかわらず、それが有効なもので航空運送サービスを受けるのに何ら支障がないとの誤認を生ずるものであって、右誤認は、まさに航空券の品質、内容に関して生じたものであるといわなければならない。

また、被告日本航空がペックス運賃航空券を廉価販売すること自体が、右のような誤認を生ぜしむる暗示的な表示であると考えられる。すなわち、不正競争防止法一条一項五号の「表示」は、文書による直接的な表示に限られるわけではなく、口頭による表示や、錯誤を生じやすい暗示的な表示も含むものというべきである。

したがって、被告日本航空がペックス運賃航空券の廉価販売を行う行為は、商品の品質内容につき誤認を生ぜしむる表示をし、または当該表示を付した商品を販売する行為に該当する。

そして、このような被告日本航空の行為により、適法有効な航空券が正規の運賃よりはるかに下回る価格で流通しているとの誤解が消費者に生じているため、原告らは、運輸大臣により認可された運賃で発行された適法かつ有効な航空券を販売することが困難となっており、原告らは営業上の利益を害されている。

よって、ペックス運賃は、現行の四割程度の適正な価格に引き下げられるよう変更されるべきであるが、それまでの間、原告らは、被告日本航空に対し、不正競争防止法一条一項五号に基づき、請求の趣旨2記載のとおり、運輸大臣による認可運賃を収受することなく販売する行為、すなわち右認可航空運賃を下回る価額の航空券を販売する行為の差止めを求める。

(二) (民法七〇九条に基づく予備的請求)

仮に、右(一)が認められないとしても、被告日本航空が、OFCタリフに記載された金額未満の価格で航空券を販売する行為は、運輸大臣の認可を受けた運賃によらずして運賃を収受する行為であって、航空法一五七条二号により処罰されるべき極めて違法性の強い行為であり、このような被告日本航空の行為により、適法かつ有効な航空券が正規の運賃よりはるかに下回る価格で流通しているとの誤解が消費者に生じ、その結果、原告らが認可運賃で発行された適法かつ有効な航空券を販売することが困難となっているのであって、原告らは営業上の利益を害されているものであるから、被告日本航空の右行為は原告らに対する不法行為を構成する。

ところで、一般的に、不法行為が成立する場合、侵害された利益の種類、性質、侵害行為の態様によっては、単に事後的な損害賠償請求だけにとどまらず、事前の違法行為の差止請求権をも認められる場合があると解すべきである。本件において、被告日本航空は、わが国の国際航空旅客運送事業において独占的地位を占める企業であって、同被告が認可運賃を下回る価額の違法な航空券を販売すれば、消費者に大きな誤解を与え、市場に大混乱を生ぜしめ、国際航空旅客運送事業に関わる業者に重大な影響を及ぼすことは必至であり、金銭的賠償を命ずるだけではその実効性を期待できないから、同被告に対しかかる違法行為の差止めを命ずるのが最も有効適切である。本件においては、不法行為による差止請求が認められるべきである。

よって、原告らは、被告日本航空に対し、不法行為による差止請求権に基づき、請求の趣旨2記載のとおり、運輸大臣による認可運賃を収受することなく販売する行為、すなわち右認可航空運賃を下回る価額の航空券を販売する行為の差止を求める。

4  請求の趣旨3(団体IT運賃航空券の販売差止請求)について

(一) (不正競争行為防止法一条一項五号に基づく請求)

航空旅行を促進するために、航空旅行に一定の規定に従った観光、娯楽、ホテル等の手配を加え、また旅行業者が使用できる運賃を包括旅行運賃(通常IT運賃と称されており、以下「IT運賃」という。)というが、被告日本航空は被告ジャルパックを代理人として、また被告ジャルパックは自ら、被告日本航空の発行する団体IT運賃航空券を、認可運賃を下回る値段で一般の人々にばら売りしている(以下、このようにばら売りされた団体IT運賃航空券を「格安航空券」という。)。また、被告日本航空は、団体IT運賃航空券の大半が格安航空券としてばら売りされることを充分承知の上で、一般旅行業者に卸し売りしている。右のような被告日本航空の行為は、航空法一〇五条一項の規定による認可をうけた運賃によらないで運賃を収受するものであり、また被告ジャルパックの右行為は、これを幇助するものである。

すなわち、観光、娯楽、ホテル等の手配と組み合わされずに販売された団体IT運賃航空券は、運輸大臣の認可の条件に違反する違法無効なものであって、航空会社に対しその航空券面上に表示された航空運送サービスを請求することができないものであるから、右航空券は、このようにばら売りされることによって違法かつ無効なものになる。被告らは販売代理店などと共謀のうえ、これを秘匿して右航空券のばら売りを行っている。被告らの右行為は、顧客をして有効な団体IT運賃航空券のバラ売りがありうるかのごとく誤信せしむる行為であり、顧客は被告らのこのような行為によって、自己が取得した格安航空券が、真実は瑕疵があって航空運送サービスを法的には受けられないものであるにもかかわらず、それが有効なもので航空運送サービスをうけるのに何ら支障がないとの誤認を生ずるものであって、右誤認は、まさに航空券の品質・内容に関するものであるといわなければならない。

また、被告らが格安航空券を販売することは、右のような誤認を生ぜしむる暗示的な表示であると考えられ、不正競争防止法一条一項五号の「表示」が、錯誤を生じやすい暗示的な表示なども含むものであることは前記のとおりである。

したがって、被告らの格安航空券の販売は、商品の品質・内容につき誤認を生ぜしむる表示をし、または表示を付した商品を販売する行為に該当する。

被告らの右行為により、適法かつ有効な航空券が正規の運賃よりはるかに下回る価格で流通しているとの誤解が消費者に生じ、原告らが運輸省の認可した運賃で発行された適法かつ有効な航空券を販売することが困難となっているのであって、原告らは営業上の利益を害されている。

よって、普通運賃エコノミークラスは、団体IT運賃以下の適正な価額に引き下げられるべきであるが、それまでの間、原告らは、被告らに対し、不正競争防止法一条一項五号に基づき、請求の趣旨3記載のとおり、宿泊の手配を組み合わせることなく、格安航空券のみを販売する行為の差止めを求める。

(二) (民法七〇九条に基づく予備的請求)

仮に、右(一)が認められないとしても、被告日本航空とその子会社である被告ジャルパックは、運輸大臣の認可の条件に違反し、観光、娯楽、ホテル等の手配を組み合わせることなく、格安航空券のみを販売する行為を継続的に行っている。

被告日本航空がこのような行為を行うことは、運輸大臣の認可を受けた運賃によらずして運賃を収受するものであるから、明らかに航空法に違反するものであるし、同被告と密接な関連のある被告ジャルパックがこのような行為を行うこともまた、被告日本航空の違法行為に加担し、これを助長するものであるから、違法性の極めて強度な行為というべきである。

被告らのこのような違法行為により、原告らは適法な航空券を誤解なく顧客に販売することができず、有形、無形の営業上の損害を被っている。

よって、前記3(二)と同様の理由により、原告らは、被告らに対し、不法行為による差止請求権に基づき、請求の趣旨3記載のとおり、宿泊の手配を組み合わせることなく、格安航空券のみを販売する行為の差止めを求める。

5  請求の趣旨4(パッケージツアーの販売差止請求)について

(一) (不正競争行為防止法一条一項五号に基づく請求)

被告ジャルパックは、IT一般規則に規定された最低基準に適合しない団体ITを企画・販売している。例えば、被告ジャルパックは、「アヴァ」のパンフレットで、「ロサンゼルス七日間」を一五万九〇〇〇円で企画・宣伝・販売しているが、これはIT一般規則による最低販売価格二五万円(団体IT運賃二一万四〇〇〇円と一泊当たり六〇〇〇円として宿泊費用三万六〇〇〇円との合計額)を大幅に下回っている。すなわち、右「ロサンゼルス七日間」のパッケージツアーは、本来、団体IT運賃が二一万四〇〇〇円であるべきところ、実質的には、一二万三〇〇〇円(一五万九〇〇〇円から宿泊費用相当額三万六〇〇〇円を控除した額)で販売していることになる。

被告ジャルパックの右の行為は、被告日本航空が航空法一〇五条一項の規定による認可を受けた運賃によらないで運賃を収受することを幇助するものである。

運輸大臣の認可した金額を下回る価額で販売された外国パッケージツアーは、その中の主要なサービスである目的地への航空運送サービスを法的に請求することのできない瑕疵のあるものであるから、被告ジャルパックの販売する右パッケージツアーは、このように廉価販売されることによって、その目的を達成しえない重大な瑕疵が生ずるものであるところ、被告ジャルパックは、これを秘匿して右パッケージツアーの廉価販売を行っているものであり、同被告の右行為は、顧客をして、あたかも瑕疵のないパッケージツアーの廉価販売がありうるかのごとく誤信せしむる行為であり、顧客は、被告ジャルパックの右の行為によって、自己が取得したパッケージツアーが、真実は瑕疵があって、目的地への航空運送サービスを法的には請求できないものであるにもかかわらず、それが瑕疵のないものであり、運送サービスを受けるのに何らの支障がないとの誤認を生じるものであって、右誤認は、商品たるパッケージツアーの品質・内容に関して生じたものであるといわなければならない。

被告ジャルパックの右パッケージツアーの廉価販売は、右のような誤認を生ぜしむる暗示的な表示であると考えられ、不正競争防止法一条一項五号の「表示」が、錯誤を生じやすい暗示的な表示なども含むものであることは前記のとおりである。

したがって、被告ジャルパックによる右パッケージツアーの廉価販売行為は、商品の品質・内容につき誤認を生ぜしむる表示をし、または表示を付した商品を販売する行為に該当する。

このような被告ジャルパックの行為により、消費者は、適法かつ有効なパッケージツアーが正規の運賃をはるかに下回る価格で販売されているとの誤解を生じ、その結果、原告秘湯の旅は、運輸省の認可した適法かつ有効な価額のパッケージツアーを、顧客に誤解を与えることなく、販売することができなくなっており、その営業上の利益を害されている。

よって、団体IT運賃は現行の六割程度に引き下げられるべきであるが、それまでの間、原告らは、被告ジャルパックに対し、請求の趣旨4記載のとおり、同被告の違法行為、すなわち、OFCタリフ(<書証番号略>)に記載された金額を下回る価額のパッケージツアーを宣伝・販売する行為の差止めを求める。

(二) (民法七〇九条に基づく予備的請求)

被告ジャルパックは、被告日本航空から、運輸大臣の認可運賃を下回る価額の違法な団体IT運賃航空券を仕入れて、観光、娯楽、ホテル等の手配を組み合わせた安価なパッケージツアーを継続的に宣伝、販売している。

被告ジャルパックのこのような違法行為により、原告らは、適法かつ有効な団体IT運賃航空券と組み合わされた適法なパッケージツアーを誤解なく顧客に販売することができず、営業上の損害を被っている。

よって、前記請求原因3、4の各(二)と同様の理由により、原告らは、被告ジャルパックに対して、不法行為による差止請求権に基づき、請求の趣旨4記載のとおり、同被告の違法行為、すなわち、OFCタリフに記載された金額を下回る価額のパッケージツアーを宣伝・販売する行為の差止めを求める。

6  請求の趣旨5(請求の趣旨2ないし4の訴訟にかかる弁護士費用についての損害賠償請求)について

原告らは、請求原因3ないし5記載のとおり、被告らの故意による不正競争行為あるいは不法行為により、請求の趣旨2ないし4記載の差止請求を伴う本件訴訟を弁護士に委任して提起せざるを得なくなったが、これに要する弁護士費用は、金二〇〇万円を下回ることはない。これを原告らは一〇〇万円ずつ負担しなければならないところ、右費用は、被告らの関連共同する前記不正競争行為又は不法行為と相当因果関係のある損害である。

よって、原告らは、それぞれ、被告らに対し、不正競争防止法一条の二第一項又は民法七〇九条に基づき、弁護士費用一〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成元年八月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

(被告日本航空)

請求原因1の各事実は認め、その余は否認する。

(被告ジャルパック)

請求原因1のうち、(二)の事実は認めるが、(一)は知らない。

請求原因2ないし6のうち、5(一)の被告ジャルパックが「アヴァ」のパンフレットで「ロサンゼルス七日間」を一五万九〇〇〇円で宣伝したこと、及びこれを販売した事実は認め、その余は否認する。

三  被告らの主張

(被告日本航空の主張)

1 不法行為に基づく損害賠償請求について

(一) 認可申請の違法の主張に対して

航空運賃は、航空法一〇五条二項所定の基準に基づき、運輸大臣が認可するものと規定され(同条一項)、右航空運賃認可申請に対する運輸大臣の行政処分においては、その認可申請の適否が審査されるのであるから、本件において被告日本航空の認可申請に対して運輸大臣の認可が与えられている以上、認可申請自体について違法を問疑する余地はない。

(二) 欺瞞的行為の主張に対して

被告日本航空が、対外的に行った日本発ロサンゼルス行航空券の値下げ等に関する発表の内容には、なんら虚偽に当たる部分は存在しない。すなわち、平成元年五月一一日付け日航ニュース(<書証番号略>)においては、日本発ロサンゼルス行普通往復運賃の値下げ及び途中降機制限付き中間クラス運賃の廃止等が同年七月に予定されていることが触れられており、また、被告日本航空の同年六月一日付代理店宛通知(<書証番号略>)には、運輸大臣の認可が得られることを条件として同年七月一日以降、日本発米国カナダ行普通運賃が値下げされること及び途中降機制限付き中間クラス運賃が廃止されることが記載されているのであるから、被告日本航空には、原告サカエ・トラベルが主張するような航空券値下げに関する欺瞞的行為は存在しない。

(三) 原告サカエ・トラベルの「実質的な値上げ額」が損害であるとの主張に対して

航空会社は、運輸大臣により認可された航空運賃以外の航空運賃を収受することを禁止されているのであり(航空法一五七条二号)、航空運送の便益を受けるために支払われるべき運賃が所定の認可を得た認可運賃であることは当然のことであるから、かかる認可運賃を前提とする以上、航空券購入に伴う損害の発生する余地はない。

原告サカエ・トラベルは、成田発ロサンゼルス行航空券の価額について、従前の途中降機制限付き中間クラスの価額である「一六万八四〇〇円」と現行の中間クラスの価額である「一八万六八〇〇円」とを対比させて、前者が後者に相当するものとして、その差が損害である旨主張するが、従前、成田発ロサンゼルス行の中間クラス航空券には、一六万八四〇〇円の途中降機制限付きのものと、一九万〇六〇〇円の制限付きでないものとがあり、平成元年七月一日から制限付きの航空券はこれを廃止し、制限付きでない航空券は、これを残したうえ、一八万六八〇〇円に値下げしたものであり、原告が対比する右両航空券は、航空券としては種類を異にするものであるから、その価額の相違をって、前記航空券購入に伴う損害なるものを論ずることはできない。

2 不正競争防止法に基づく差止請求について

(一) 原告らは、不正競争防止法に基づく差止請求をしているものであるが、同法にいう「商品」とは、営業取引の目的たる財貨をいい、役務ないしサービスを含まない。被告日本航空の国際運送約款からも明らかなとおり、航空券は、航空会社と旅客との間の航空運送契約を前提とし、旅客が当該航空運送上の役務を受けようとするときに必要とされる券片たるに止まり、かかる券片が、航空運送契約上の役務を離れて、有体物たる「商品」として、独立の存在意義を有することはあり得ない。

(二) 被告日本航空の前記約款上、航空法による認可運賃との差額の支払いが必要となったときには、これがなされない限り、同被告が旅客の搭乗を拒否しうることが明記されているのであるから、航空券について誤認的表示がなされていると解する余地はない。

(三) 被告日本航空は、航空運送事業者であり、他方、原告らは、被告日本航空と旅客との間における航空運送契約の成立にあたり、航空券を発券する代理店と旅客との間で事実上の媒介行為をすることがあるにすぎない者であるから、航空券の発券をめぐり、被告日本航空と原告らとの間には競争関係は存在せず、仮に航空券に誤認的表示がなされているとしても、これにより原告らの営業上の利益が害されるということはありえない。

3 不法行為に基づく差止請求に対する主張について

(一) 原告らは、不法行為に基づく差止請求をなしているが、民法は、不法行為を理由とする救済方法として、名誉毀損の場合に名誉回復のために適当な処分を求めることができるとするほかは(民法七二三条)、金銭賠償を原則としているのであって、差止めを求めることはできない。

(二) 具体的なケースにおいて、被告日本航空が旅客から収受した運賃と航空法による認可運賃との間に差額が生じ、その支払が必要となる場合を想定しても、かかる事態は、被告日本航空の約款上、旅客において当然了解すべき事柄であり、そのことによって、航空券の発券を受ける旅客との間で、事実上の媒介行為をすることがあるに過ぎない原告らの業務に支障の生じる余地はないから、原告ら主張の営業上の損害を生ずる余地はない。

(被告ジャルパックの主張)

4 不正競争防止法に基づく差止請求について

不正競争防止法一条一項五号所定の「商品」とは、「営業取引の目的たる財貨」をいうのであり、役務ないしサービスは含まれないと解すべきであるから、予約済の交通機関・宿泊施設等をパッケージした旅行プランなどは、取引形態上「商品」と観念されているものといえども、同法の「商品」には該当しない。

5 原告らの不法行為に基づく差止請求について

現行法下においては、民法七二三条(名誉毀損)の場合を除いては、不法行為の差止めは認められていないのであって、本件は民法七二三条に該当しないことは明白であるから、かかる請求は主張自体失当である。

また、近時、人格権・環境権等を基礎として不法行為の差止めを認める判決例も散見されないではないが、本件がこれらに該当しないことも明らかである。

四  被告らの主張に対する原告らの反論

1  不正競争防止法上の「商品」概念について

航空券やパッケージツアーのように、極めて類型化、定型化されたサービスは、不正競争防止法一条一項の「商品」に該当すると解すべきである。航空券やパッケージツアーは、行程、観光、宿泊等のサービス内容が極めて定型化され、その内容と販売価額とがパンフレット等に表示され、消費者は、そのパンフレットを見て、サービスの内容を判断、選択し、購入するという形態で取引されているのであって、このような取引形態は、有体物である商品について、近時増加している前記取引形態とまったく変わらない。そして、一般的にも、このような形態で取引される定型的なサービスは、「商品」と観念されている。被告日本航空ないしそのグループ会社も「OFCタリフ」(<書証番号略>)に「国際航空輸送サービスという『商品』の価格が国際航空運賃ということになります。」と記載し、自らも「商品」と表現しているのである。

また、第三次産業の割合が飛躍的に増加した現代において、パッケージツアーのように、極めて類型化、定型化されたサービスが不正競争防止法上の「商品」に含まれないとすれば、同法の法解釈としては、その過半において、その存在価値を失わしめることとなる。

2  原告らと被告日本航空の競争関係について

被告日本航空及び被告ジャルパックらのグループは、一体となって、航空法の認可運賃を下回る価格で航空券やパッケージツアーを販売しているのであって、被告らのこれらの不正競争行為が、旅行代理店を営み、航空券やパッケージツアーを業として販売する原告らの顧客吸引力を害するおそれがあるのであるから、原告と被告日本航空は、不正競争防止法上、競争関係に立つというべきである。

3  不法行為に基づく差止請求について

現代においては、有体物だけでなく、情報などの無体物が極めて重要な価値を有しているのであり、また、さまざまな利益を生み出すところの源泉たる営業権も、これに劣らない重要な価値を持っている。営業権は、単なる有体物と異なり、一方では代替性がなく、再調達が不可能であり、他方では将来に向かって不断に利益を生み出すところの有機的存在である。これに対する不法な侵害に対して、差止請求が認められる必要性は、むしろ有体物に対する物権よりも強いといわなければならない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1(一)の事実は、原告らと被告日本航空との間では当事者間に争いがなく、原告らと被告ジャルパックとの間では原告サカエ・トラベル代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨により認めることができ、また同(二)の事実は全当事者間に争いがない。

二認可申請の違法又は欺瞞的行為を理由する損害賠償請求について

原告サカエ・トラベルは、被告日本航空の違法な認可申請又は違法な欺瞞的行為により、本件航空券を一八万六八〇〇円で購入し、運賃改正前の途中降機制限付きの運賃一六万八四〇〇円との差額一万八四〇〇円の損害を被った旨主張するので、まず、右損害の発生の点について、検討する。

1  <書証番号略>、原告サカエ・トラベル代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告日本航空は、日本発ロサンゼルス行航空運賃に関し、約六%の値下げ及び途中降機制限付中間クラス運賃の廃止等について、運輸大臣の認可を運輸省から受け(この認可を「本件認可」又は「本件認可処分」という。)、平成元年七月一日、これを実施したこと、後藤は、原告サカエ・トラベルの業務上の都合から平成元年の七月又は八月にロサンゼルスに出張する際に使用するとして、平成元年七月五日、被告日本航空の名古屋支店において、被告日本航空発行にかかる本件航空券(<書証番号略>)を一八万六八〇〇円で購入したこと、その後これを使用することなく、また払戻しの請求をすることなく、右代表者尋問のなされた平成四年一月二二日に至っていること、後藤は、昭和五一年に旅行業を開始し、以来現在に至るまで、業務として航空券を取り扱っており、航空券の購入・払戻等の諸手続については十分理解していることが認められる。

また、<書証番号略>並びに証人金成秀幸の証言によれば、被告日本航空の便による国際線の旅客については、同被告の国際運送約款が適用されるところ、この国際運送約款によると、この約款の定めに基づく運送には、被告日本航空が適法に公示した運賃及び料金で、航空券の最初の搭乗用片による運送の開始日に有効な運賃及び料金が適用され、収受した運賃又は料金が右認可にかかる運賃または料金でない場合には、各場合に応じて、その差額を旅客に払戻し又は旅客から追徴すべきものであること(第五条A(1))、旅客の都合による払戻しに当たっての払戻額は、旅行が全く行われていない場合には、支払済の運賃額から適用手数料及び通信費を差し引いた額が支払われること、払戻しの請求は、航空券の有効期間内に行わなければならず、航空券の有効期間満了日から三〇日以内に払戻しの請求がないときはその払戻しは拒絶されること(第一一条A(1))、また未使用の航空券の有効期間は、航空券の発行日から一年であること(第三条B(2))等と規定されていることが認められる。

2  右事実によると、本件においては、運輸大臣の本件認可を受けて、日本発ロサンゼルス行航空運賃に関し、途中降機制限付き中間クラス運賃が廃止され、平成元年七月一日実施されたため、同日以降に被告日本航空の日本発ロサンゼルス行の中間クラスを利用しようとする際に収受される航空運賃は、右認可後の運賃であり、同年六月三〇日以前に途中降機制限付き中間クラス運賃の航空券を購入していた旅客は、右認可後の運賃である一八万六八〇〇円との差額を被告日本航空に支払う必要があるのであるから、七月ないし八月に業務上の必要からロサンゼルスに出張しようとした原告サカエ・トラベルの代表者後藤にとっては、運輸大臣の本件認可を前提とする限り、同年六月三〇日以前に購入しようと、同年七月一日以降に購入しようと、結局のところ合計額において右認可後の一八万六八〇〇円を支払わざるを得ず、購入時期の相違による支払額の多寡はないことに帰着する(前記認定事実からすると、後藤は、本件航空券を購入する際、このことを了知していたと推認することができる。)。したがって原告主張のような損害の発生はないことは明らかである。

なお、前記事実によると、原告サカエ・トラベルの代表者である後藤は、本件航空券を購入後これを使用しなかったのであるから、購入額である一八万六八〇〇円から手数料及び通信費を差し引いた額の払戻しを受けることが可能であったところ、払戻しの手続きをすることなく、払戻可能な期間を経過したものであり、しかも、後藤は航空券の購入及び払戻しの手続きについては十分理解し、本件航空券を購入して一二日後に本訴を提起している(本件記録上明らかである。)ことからすると、後藤は、自ら望んで本件航空券の払戻しを受けなかったものと推認することができるのであって、この点からも、原告サカエ・トラベルの主張が失当であることは明らかである。

3  ところで、航空運賃の決定または変更については、運輸大臣が、定期航空運送事業者の申請に基づき、航空法一〇五条二項各号に規定されている各基準に従い、その裁量のもとに認可するものであり(航空法一〇五条一項)、このような認可処分がされたときは、これに重大かつ明白な瑕疵がない限り、右認可処分は、適法かつ有効なものとして取り扱われるべきものであるところ、原告サカエ・トラベルは、運輸省は国際航空運賃に関する情報を被告日本航空を通じてしか入手することができないから、被告日本航空のなす運賃申請を実質的に審査することはできない立場にあり、被告日本航空が決めたものを形式的・追認的に認可している実情にある旨主張し、本件認可処分については、運輸大臣が認可処分をするに当たり考慮すべき事項を考慮していないことによる重大かつ明白な瑕疵が存する旨を主張するかのようであるので、この点について検討するに、本件記録上、原告主張に沿う趣旨に帰着する<書証番号略>の各記載部分もないわけではないが、右各証拠のみでは、未だ本件認可処分に重大かつ明白な瑕疵の存在を認めることはできない。

右のとおり、原告サカエ・トラベルの請求原因2記載の主位的及び予備的請求は、原告主張の損害発生の事実が認められないから、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

三不正競争防止法一条一項五号に基づく差止請求(請求の趣旨2ないし4の主位的請求)について

不正競争防止法一条一項五号に基づく差止請求に関し、原告ら主張の航空券等が同法にいう「商品」に該当するか否かについてはしばらくおくとして、被告らの表示が航空券等の「品質」「内容」等について誤認を生ぜしめるものであるか否かについて、まず判断する。

原告らが、航空券等の品質・内容であるとして主張する趣旨は必ずしも明確ではないが、原告らが、被告らの販売する呼び寄せ航空券、格安航空券、又はかかる航空券を組み入れた外国パッケージツアー(以下、これらを「格安航空券等」という。)の「品質」「内容」であるとして主張するところは、格安航空券等は、IT一般規則に違反し、認可運賃を下回る価格で販売されているから、右格安航空券等に関する航空運送契約は違法かつ無効なものであり、したがって、法的には、いずれもその航空券面上に記載された航空運送サービス、あるいは外国パッケージツアーにおける目的地への航空運送サービスを請求できないものである、というものであると解される。

そこで、検討すると、仮に被告らが行う格安航空券等の販売等が航空法一〇五条一項に違反するものであるとしても、同条項に違反した航空運送契約は、その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別として、同条項に違反しているからとの理由で直ちに私法上無効であるということはできないし、次に述べる理由から、航空法一〇五条一項に違反した格安航空券等による航空運送契約が公序良俗に反するということもできない。

1  航空法は、航空機の航行の安全及び航空機の航行に起因する障害の防止を図るための方法を定め、並びに航空機を運航して営む事業の秩序を確立し、もって航空の発達を図ることを目的とするものであり(一条)、このような目的を達成するために、定期航空運送事業者に、旅客及び貨物の運賃及び料金の設定又は変更について運輸大臣の認可を受けさせることとしているのであり(一〇五条一項)、しかもこれを認可しようとする運輸大臣に対し、「能率的な経営の下における当該事業の適正な経費に適正な利潤を含めたものの範囲をこえることとならないこと」「当該事業の提供するサービスの性質が考慮されているものであること」「旅客又は荷主が当該事業を利用することを著しく困難にするおそれがないものであること」等の基準を順守することとさせているのである(同条二項)。また、航空法、運送約款の設定又は変更についても運輸大臣の認可を受けさせることとし(一〇六条一項)、この認可基準の一つとして「公衆の正当な利益を害するおそれがないものであること」を定めているのである。このような航空法の規定に照らすと、旅客又は荷主の利便、あるいは公衆の利益は同法の大きな柱の一つであると考えることができる。

2  各掲記の証拠、<書証番号略>、原告サカエ・トラベル代表者尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  旅行代理店は、航空法上の問題があることなどから、従来格安航空券その他の安価な航空券をパンフレットその他の広告等によって表立って情報を開示することを控えていたが(<書証番号略>)、次第に公然と宣伝販売するようになり、現に被告日本航空の関連会社であるジャパンツアーシステム株式会社は、認可を受けたペックス運賃を下回る価格で東京バンコク間及び東京香港間のペックス航空券を販売したり、認可を受けた団体IT運賃を下回る価額で被告日本航空発行のホノルル行の団体IT航空券を販売し(<書証番号略>)、また被告ジャルパックのアメリカ現地法人であるPCS Travelも、東京ニューヨーク間往復の被告日本航空の呼び寄せ航空券を認可されたペックス運賃よりも相当に安価である金額で販売する旨宣伝広告している(<書証番号略>)。

(二)  新聞、雑誌、テレビ等のマスコミによっても格安航空券その他の安価な航空券の存在がしばしば取り上げられるようになり(<書証番号略>)、例えば雑誌「日経TRENDY」一九八九年一二月号(<書証番号略>)においては、二七頁にわたり、各種の安価な航空券等の存在などの日本の航空運賃のことが特集され、同誌には、「エアライン別格安チケット相場」の欄が設けられ、同欄においては、被告日本航空の日本発ヨーロッパ行往復航空券は、認可運賃が五八万六九〇〇円であるにもかかわらず、一二月上旬のオフシーズンにおいては、二一万八〇〇〇円で販売されていることが紹介されている。更に、平成二年には、「ディスカウント・エア・チケット完全情報誌」と称した雑誌まで現れるに至っている(<書証番号略>)。

(三)  格安航空券その他の安価な航空券は、航空券の販売のシェアにおいて相当の割合を占めるようになり、格安航空券その他の安価な航空券の相場が形成され、右相場が新聞等に掲載されるようになり、旅行代理店においても、その販売取扱いを正面から認めざるをえないこととなり、JTBや近畿日本ツアーリスト等の大手旅行代理店においても、平成四年五月ころには、従来、表立って販売することを控えていた前記安価な航空券を店頭で本格的に販売するようになった(<書証番号略>)。

(四)  公正取引委員会も、団体用の航空座席については、IATA協定に基づく認可運賃から乖離した航空運賃が形成されている状況があり、種々の問題があるとして、その流通実態を調査したことがあり、これによると、右の安価な航空券の主なものは、エアオンと呼ばれる団体用の航空券のばら売りであるが、その流通量を正確に把握することは困難であること、また、航空会社のほとんどは自社の団体用の航空座席の相当部分がエアオンになることを黙認ないし公認していること、このような安価な航空券を取り扱う旅行代理店も多くなってきているものの、航空券の販売業者は、右の航空券に関する情報について、必ずしも十分にパンフレットや新聞広告等の広告宣伝活動をしておらず、右の安価な航空券の価格等に関する情報が一般消費者に開示されていないなどの問題点があることが指摘されている。右調査の結果、同委員会の「政府規制等と競争政策に関する研究会」は、団体用の航空割引運賃などを航空法で定められている私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外から取り除くべきである旨などの提言をまとめた(<書証番号略>)。

3 右のように、格安航空券その他の安価な航空券は、一般消費者にも相当に利用され、格安航空券の相場が形成されるまでに至っており、右安価な航空券が中小の旅行代理店のみならず、被告日本航空の関連会社や大手旅行代理店でも公然と販売されるに至っていること等の前記2で認定した事実を総合すると、格安航空券その他の安価な航空券は社会的にも認知されているということができる。そして、このような事実関係と前記1で述べた、航空法が旅客の利便ないし公衆の利益を柱の一つとしていることとを併せ考慮すると、正規の認可運賃より低額な運賃で締結された航空運送契約は、仮に航空法一〇五条一項に違反するものであるとしても、民法九〇条にいう公序良俗に違反するものということはできない。

そうすると、本件において、被告日本航空と旅客との間の航空運送契約は、私法上、その効力が直ちに無効とされるものでもなく、旅客は同被告に対しその航空券面上に表示された航空運送サービス、あるいは外国パッケージツアーにおける目的地への航空運送サービスを請求できるのであるから、格安航空券等の「品質」「内容」として、格安航空券等においてはこのような航空運送サービスを請求できないものであることを前提とする原告らの不正競争防止法一条一項五号の主張は、その前提を欠くことに帰着するというほかはない。

以上によれば、原告らの不正競争防止法一条一項五号に基づく前記主張は、いずれも理由がないことが明らかである。

四不法行為に基づく差止請求(請求の趣旨2ないし4の予備的請求)について

原告らは、予備的に、民法七〇九条に基づく差止めを求めるので、この点について検討するに、不法行為による損害の回復については、民法は、原則として、金銭による損害賠償によるものと規定し、例外的に、七二三条において、名誉毀損に関する回復措置を定めているのにすぎないから、民法七〇九条に基づく差止請求は、原則として許されないものというべきであり、原告らの主張は、その主張自体において失当であるというほかはない。

もっとも、原告らは、本件においては、民法七〇九条に基づく差止請求を認めるべき特別の事情がある旨主張するが、仮に、原告らの右特別の事情に関する主張事実の存在が認められるとしても、それのみでは、未だ、民法七〇九条に基づく差止請求を認めるに足りる特別の事情ということは到底できず、他に右特別の事情を認めるに足りる証拠はない。

五請求の趣旨5(請求の趣旨2ないし4の訴訟に係る弁護士費用についての損害賠償請求)について

原告らは、被告らの前記不正競争行為または不法行為により、右各行為に対する差止請求を提訴せざるを得なくなったため、弁護士費用相当額の損害を被った旨主張するが、被告らに原告らが主張するような不正競争行為および不法行為が成立しないことは既に説示したとおりであるから、それらが成立することを前提とした右主張は、理由のないことが明らかである。

六よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官一宮和夫 裁判官足立謙三 裁判官前川高範)

別紙

目録(一)

上段

下段

出発地

目的地

適用期間

(日本からの最初の太平洋横断旅行開始日が左記期間内のもの)

認可運賃

東京

ニューヨーク

YH

七月二〇日~八月二二日

四一一、〇〇〇円

YK

四月二六日~五月二日

一二月二七日~一月二日

四〇一、〇〇〇円

YJ

七月一日~七月一九日

三六一、〇〇〇円

八月二三日~八月三一日

(三一〇、〇〇〇円)

YF

九月一日~一〇月三一日

三五〇、〇〇〇円

三月一日~三月三一日

(三〇〇、〇〇〇円)

YT

四月一日~四月二五日

三二七、〇〇〇円

五月三日~六月三〇日

(二七七、〇〇〇円)

一一月一日~一一月三〇日

二月一日~二月二八日

YL

一二月一日~一二月二六日

三〇一、〇〇〇円

一月三日~一月三一日

(二五〇、〇〇〇円)

名古屋

ホノルル

YH

一二月二八日~一二月三一日

二四七、〇〇〇円

YK

四月二六日~五月二日

二三九、〇〇〇円

八月六日~八月一五日

YJ

七月二〇日~八月五日

二二六、〇〇〇円

八月一六日~八月二〇日

一二月二三日~一二月二七日

一月一日~一月三日

YF

三月一日~三月三一日

二一六、〇〇〇円

YT

八月二一日~九月三〇日

二〇〇、〇〇〇円

二月一日~二月二八日

YQ

四月一日~四月二五日

一八九、〇〇〇円

五月三日~五月三一日

一〇月一日~一一月三〇日

YL

六月一日~七月一九日

一七四、〇〇〇円

一二月一日~一二月二二日

一月四日~一月三一日

注1 適用期間欄上部に記載された「YH、YK、YJ、YF、YT、YQ、YL」の各符号は、

適用期間を航空券面上明らかにするため、航空券面上のFARE BASIS欄に記載される符号である。

注2 金額欄( )内は、次の条件を満たしたときの金額である。

最後の日本国内地点の出発日が土曜日、日曜日ではなく、かつ、

帰路の最後の北米内地点の出発日が土曜日ではないこと

(最後の日本国内地点の出発日及び帰路の最後の北米内地点の出発日は、航空券面上のDATE欄に記載される)。

別紙

目録(二)

上段

下段

出発地

目的地

適用期間

(日本からの最初の国際線旅行開始日が左記期間内のもの)

認可料金

名古屋

ホノルル

YH

一二月二八日~一二月三一日

二四七、〇〇〇円に一泊当り

七、〇〇〇円を加算した金額

YK

四月二六日~五月二日

八月六日~八月一五日

二三九、〇〇〇円に一泊当り

七、〇〇〇円を加算した金額

YJ

七月二〇日~八月五日

八月一六日~八月二〇日

一二月二三日~一二月二七日

一月一日~一月三日

二二六、〇〇〇円に一泊当り

七、〇〇〇円を加算した金額

YF

三月一日~三月三一日

二一六、〇〇〇円に一泊当り

七、〇〇〇円を加算した金額

YT

八月二一日~九月三〇日

二月一日~二月二八日

二〇〇、〇〇〇円に一泊当り

七、〇〇〇円を加算した金額

YQ

四月一日~四月二五日

五月三日~五月三一日

一〇月一日~一一月三〇日

一八九、〇〇〇円に一泊当り

七、〇〇〇円を加算した金額

YL

六月一日~七月一九日

一二月一日~一二月二二日

一月四日~一月三一日

一七四、〇〇〇円に一泊当り

五、〇〇〇円を加算した金額

注1 適用期間欄内上部に記載された「YH、YK、YJ、YF、YT、YQ、YL」の各符号は、適用期間を航空券面上明らかにするため、

航空券面上のFARE BASIS欄に記載される符号である。

注2 最低販売価格を算出するうえでの「泊数」の数え方は、次の基準で行う。

最初の途中降機地点(観光または娯楽が手配され、パンフレットに明示されている地点また宿泊を伴う地点。

ただし、到着日に接続便がない場合、到着時刻より二四時間以内の翌日便に乗り継ぎのために宿泊のみする場合は、

全旅程中一回に限り途中降機とみなさない。)の到着時間と最後の途中降機地点の出発時間の間の実際の宿泊数。

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